沖縄訪問に際して、研究プロジェクトメンバーそれぞれが、沖縄に関する映画を観るということになった。
戦争をテーマにした映画は、残虐なシーンも多く苦手で避けてきたのだが、「沖縄×映画」で検索していたら、一つの予告が目に留まった。
映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」のような人間の生をありのまま描いたような雰囲気に惹かれ、あらすじを追っていくと、その結末が知りたくなり、映画はまだ公開されていないので、原作の小説『宝島』真藤順丈(2018)を手に取った。
Kindleでは9000頁超にも及ぶ大作だが、話に引き込まれ、どんどん読み進めた。
あらすじ(ネタばれなし)は、映画版のSTORYを借りると、以下の通りである。
英雄はなぜ消えたのか?
幼馴染3人が20年後にたどり着いた真実とはー。1952年、沖縄がアメリカだった時代。米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちがいた。いつか「でっかい戦果」を上げることを夢見る幼馴染のグスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)の3人。そして、彼らの英雄的存在であり、リーダーとしてみんなを引っ張っていたのが、一番年上のオン(永山瑛太)だった。全てを懸けて臨んだある襲撃の夜、オンは“予定外の戦果”を手に入れ、突然消息を絶つ…。
残された3人は、「オンが目指した本物の英雄」を心に秘め、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、オンの影を追いながらそれぞれの道を歩み始める。しかし、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境では何も思い通りにならない現実に、やり場のない怒りを募らせ、ある事件をきっかけに抑えていた感情が爆発する。
やがて、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出す――。
消えた英雄が手にした“予定外の戦果”とは何だったのか?そして、20年の歳月を経て明かされる衝撃の真実とは――。 https://www.takarajima-movie.jp/
正直、読んでいて胸を締め付けられる部分もかなり多く、これは映画館で観るのはどうしようかなと思っている。
そして、読了後は沖縄の戦後史を概観できただけではなく、御嶽やノロなどの風習、女性や子どもを取り巻く基地問題などをグスク・ヤマコ・レイ・オンたちの息遣いと感情を鮮明に追想する形で知ることができた。
生気を失くした人、魂が抜けたような人に再起の知恵を授けて、祈禱をおこなうのもユタの大事な役割のひとつだった。
真藤順丈. 宝島 上下合本版 (講談社文庫) (Japanese Edition) . 講談社. Kindle Edition.
オンを失ったグスク・ヤマコ・レイの抱える葛藤は、戦中・戦後の沖縄を生きた多くのウチナンチュの一部なのだろう。なんくるないさと思わなければ、忘れなければ生きてこられなかった壮絶な出来事を何度も経験した。
この話には御嶽(ウタキ)が何度も登場し、物語の鍵ともなる。土地から立ち昇る不思議な力、何千もの瞳に見られている、見守られているような、過去も現在もまじりあった時間がある。物語は、1952年から1972年の沖縄の直線的な時間軸をスピード感をもって進んでいく。しかし、御嶽の登場によって、ニライカナイへ渡ったウチナンチュたちの声が、物語に重厚感を持たせている。
御嶽の場面は単なる背景ではなく、過去と現在をつなぎ、人々の祈りや大地とのつながりを象徴するものとして描かれている。読了後、沖縄に足を踏み出す瞬間が、以前とは異なり、お邪魔させていただいている、場所の重層的な記憶の上に立たせていただくという意識へと変化した。こうした御嶽の描写を読んでいると、私はふと福島で災害ボランティアをしていたときの記憶を思い出した。毎回常磐線の駅に降り立つときに感じたあの独特の感覚と、どこか似ているのだ。
そして、少しネタバレを含んでしまうかもしれないが、「英雄」についても考えさせられた。
「このごろ思うのさ。おれの親友は死んでコザの思想信条になったんじゃないのかって。故郷で大きな騒動が起こるたびに、みんなを助ける英雄が望まれるだろ。そういう島ぐるみの願望の集合体のようなものが世間に漂うのさ。だれかはその名前を騙るし、だれかはそのふるまいを真似る。おれたちはなにかあるたびに、出来事の後ろにその気配を感じてしまう」
真藤順丈. 宝島 上下合本版 (講談社文庫) (Japanese Edition) . 講談社. Kindle Edition.
英雄とは、だれもがなり得る。
場所への愛着という言葉だけでは到底語りきれない土地との深いつながりが、ウチナンチュの英雄たちの心に深く根ざしていた。それを知った今、私もまた英雄たちがのこした沖縄の行く末を、ともに見つめていく責任があると思わされた。
◆追記(2025/09/21)
沖縄から帰ってきて、はやりその行き帰りの機内は沖縄にバケーションに行くと思われる家族連れやカップル、楽しんできたと思われる人々が散見された。沖縄の歴史というのは、「リゾート地」の煌びやかな印象に覆い隠されてしまっているようにさえ思える。
今回のプロジェクトリーダーのTさんは沖縄出身であり、私が『宝島』を読んだことをお伝えするととてもうれしそうで、戦後の県知事たちの苦闘もぜひ知ってほしいとのことで、「太陽(ティダ)の運命」をお勧めしてもらった。当時の首長たちがどのような葛藤を抱え決断してきたのかを知るために、近いうちにぜひ観てみたいと思う。
沖縄ではプロジェクトメンバーのみなさんや学生に宝島について話したり、その後も映画についての特番を探しては積極的に見たりしていた。当事者がご存命であるコザ暴動や戦後史で起きた数々の事件。それをどのように作品にしたのか、大友監督の想いを聞いたりした。大友監督は、「ちゅらさん」で沖縄に入っていた時から、沖縄の人のやさしさの背景には歴史が何らかの形で関わっているのではと思っており、そのやさしさと歴史をテーマに映画を作り上げたいと思っていたそう。確かに、今回沖縄北部の共同売店で聞き込み調査をしていたのだが、ひょんなことから、売店にお魚を卸しに来ていた隣に住むおじぃの家にお邪魔させてもらい、お刺身をいただいたうえに、おじぃのパイナップル畑でパインの収穫をさせてもらうことになった。初めましての私たちにこれほどの経験をさせてくれる温かさは本当に貴重だと体感した。
小説を読んだり映画の特番を見て、私自身、沖縄について今まで以上に関心が高まっているし、これからも関心を持ち続けていきたいと思っている。